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バイオハザード30年史:シリーズ進化と日本の表現規制の変遷

バイオハザードの歴史とCERO規制の変化を解説する記事のアイキャッチ画像

1996年に初代『バイオハザード』が発売されてから、シリーズは30年近くにわたって進化を続けてきました。サバイバルホラーの元祖として、グラフィックやゲームデザインだけでなく、「ホラー表現そのもの」の在り方にも大きな影響を与えています。

一方で、日本国内ではコンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)による表現規制の影響を強く受けてきたシリーズでもあります。技術が進歩し、描写がリアルになればなるほど、「日本版だけ表現が違う」という事態が増えていきました。

本記事では、バイオハザードシリーズの歴史と、日本における表現規制の変遷を振り返りつつ、近年のリメイク作品や次回作『バイオハザード レクイエム』の時代に向けて、何が変わり、何が変わっていないのかを整理していきます。


■ バイオハザード本編・リメイクの30年史

まずは、シリーズ本編および主要なリメイク作品を年表で整理してみます。どのタイミングで大きな転換があったのかを把握しておくと、後の「規制」の話も分かりやすくなります。

西暦タイトル(日本語)主な特徴
1996バイオハザードシリーズ原点。館ホラー×固定カメラ。
1998バイオハザード2ラクーンシティを舞台にした都市型ホラー。
1999バイオハザード3 LAST ESCAPE「追跡者」による緊張感が特徴。
2000バイオハザード CODE:Veronicaクレア主演の本編的スピンオフ。
2002バイオハザード(GCリメイク)表現を大幅強化した初代リメイク。
2002バイオハザード0列車ステージなどを含む前日譚。
2005バイオハザード4肩越し視点×アクション路線への転換点。
2009バイオハザード5協力プレイ重視のアクション寄り作品。
2012バイオハザード6複数主人公・大作路線のピーク。
2017バイオハザード7 レジデント イービル1人称視点のサバイバルホラーへ回帰。
2019バイオハザード RE:2REエンジンによる本格リメイク第1弾。
2020バイオハザード RE:3RE:2に続くリメイク第2弾。
2021バイオハザード ヴィレッジ本編8作目。村と城を舞台にした続編。
2023バイオハザード RE:4現行最高峰クラスのリメイク。
2026(予定)バイオハザード レクイエム次世代本編。詳細は今後公開予定。

こうして見ると、バイオハザードはおおまかに「クラシック三部作」「アクション路線」「1人称ホラーへの回帰」「REエンジンによるリメイク期」といった段階で進化してきたことが分かります。

次に、それぞれの時代で「表現」と「規制」がどのように変化していったのかを、もう少し詳しく見ていきます。


■ シリーズ進化とともに強まっていった「表現規制」

● クラシック期:ポリゴンの粗さが“緩衝材”になっていた時代

初代〜3の時代は、グラフィックの解像度が現在ほど高くなく、血や暴力表現もどこか「ゲーム的」な印象がありました。もちろん当時としてはショッキングな内容でしたが、ポリゴンの粗さや固定カメラ演出のおかげで、現在ほどリアルな残酷描写には見えなかった面もあります。

そのため、「出血」こそあっても、四肢の欠損や断面を大写しにするようなシーンは控えめで、審査的にも比較的穏やかな時代でした。

● 表現が一気にリアルになったGCリメイクと『4』

2002年のゲームキューブ版リメイク『バイオハザード』では、暗い屋敷のライティングや腐敗したゾンビの質感など、「ホラー表現のリアルさ」が一気に跳ね上がります。ここから、日本国内の審査機関もより細かく残酷描写をチェックするようになりました。

続く『バイオハザード4』では、肩越し視点によるシューティング要素が強くなり、敵の身体の一部が吹き飛んだり、首を刎ねるような表現も登場します。日本版では、こうしたシーンのカメラワークを変更したり、演出をマイルドにするなどの調整が行われました。

● 1人称ホラーへの回帰と、Z版でも“完全版ではない”時代へ

2017年の『バイオハザード7』は、1人称視点とREエンジンの組み合わせにより、「プレイヤーの目の前で人体が損壊する」ような描写が可能になりました。これにより、日本版はCERO Z(18歳以上)であっても、いくつかのシーンで欠損や切断の表現がカット・変更されています。

2021年の『バイオハザード ヴィレッジ』でも、処刑シーンや拷問的な演出の一部が、日本版では暗転処理やカメラアングルの変更によってマイルドにされています。ここから、「Z指定でも海外版とは内容が違う」という傾向が明確になっていきます。

● REシリーズ(RE:2〜RE:4)で決定的になった“日本版との違い”

2019年以降のREシリーズでは、欠損や断面描写が極めてリアルになったことで、日本版と海外版の表現差がいっそう目立つようになりました。ざっくり比較すると、近年の状況は次のようになります。

タイトル日本版(CERO)側の特徴欧州版(PEGI18)側の特徴
バイオハザード7グロテスクVerでも一部の切断・残酷シーンがマイルド化。欠損・ゴア表現をよりダイレクトに描写。
バイオハザード RE:2首や四肢の欠損演出が制限/血飛沫量も抑えめ。欠損・血飛沫ともにフル表現。
バイオハザード RE:3RE:2同様、全体的にゴア表現が弱め。オリジナル版に近い強めのゴア表現。
バイオハザード ヴィレッジ処刑・拷問系の一部シーンが変更・カット。演出変更はほぼ無く、フル版として収録。
バイオハザード RE:4首切断などの即死モーションが削除/欠損全般が不可。首切断を含む欠損演出が実装されており、差がもっとも大きい作品。

このように、技術の進歩とともにホラー表現がリアルになればなるほど、日本版では「そもそも描写できないライン」が増えていき、海外版などとの違いが大きくなっていることが分かります。


■ CEROとPEGI:レーティング基準の構造的な違い

では、なぜここまで「日本版だけ表現が違う」状況になっているのでしょうか。その背景には、日本のレーティング機関CEROと、欧州のPEGIの基準の違いがあります。

ざっくり言うと、PEGI18は「18歳以上ならかなり幅広い表現を許容する」のに対し、CEROは年齢区分(D / Zなど)とは別に「そもそもNGとされる表現ライン」を設定していると理解すると分かりやすいです。

特に厳しく見られているとされるのが、

  • 四肢や頭部の明確な欠損
  • 断面や内臓の露骨な描写
  • スプラッタ的な人体破壊のクローズアップ

といった表現です。こうした描写は、Z指定(18歳以上)であっても極めて通りにくいとされており、その結果として、バイオシリーズでも「国内版は常に何らかの調整が入る」状態が続いています。


■ 海外版を選ぶプレイヤーが増えている理由

ここ数年、バイオシリーズに限らず、「ホラーやゴア表現を含むタイトルだけは海外版を買う」というプレイヤーが少しずつ増えてきました。その背景には、次のような要素があります。

  • 本来の演出意図に近い形で作品を体験したい
  • 海外の配信者と同じ内容を楽しみたい
  • 日本版と海外版の差が大きい作品が増えた
  • PS5などの現行機がリージョンフリーで遊びやすくなった

● PS5はソフトが完全リージョンフリー

PS5本体は、ディスク版ゲームについてリージョンロックがかかっていません。海外版のディスクを日本のPS5に入れても、そのまま起動してプレイすることが可能です。

項目状態 / ポイント
本体リージョン物理的なリージョンロックなし(世界共通仕様)。
PS5ディスク版ゲーム海外版ディスクも日本のPS5でそのまま起動可能。
アップデート / パッチPSNから自動配信され、日本版と同様に適用。
セーブデータ本体ストレージに通常のゲームと同じように保存。
ゲーム内表示言語タイトルによっては、本体の言語設定に応じて自動切り替え。
DLCゲームとPSNアカウントの地域を揃える必要あり(世界共通仕様)。

このように、本編を遊ぶうえでのハードルは非常に低くなっており、「表現の差」を気にするプレイヤーにとって、海外版は現実的な選択肢になっています。

● 海外版でも日本語で遊べるケースが多い

バイオシリーズについて言えば、近年の主要タイトルは、欧州流通のマルチランゲージ版にも日本語音声・字幕が収録されているケースがほとんどです。

タイトル日本語収録状況(欧州版)備考
バイオハザード7音声・字幕ともに日本語ありマルチランゲージビルドで共通収録。
バイオハザード RE:2音声・字幕ともに日本語ありメニューから日本語を選択可能。
バイオハザード RE:3音声・字幕ともに日本語ありRE:2と同系統の仕様。
バイオハザード ヴィレッジ音声・字幕ともに日本語ありGold Editionも同様。
バイオハザード RE:4音声・字幕ともに日本語あり次世代機向けビルドでも共通仕様。

開発効率の観点からも、カプコンは「世界共通ビルドに複数言語をまとめて収録する」方針を取っており、その一環として日本語も最初から含まれている場合が多くなっています。


■ RE9(Requiem)時代に向けて:何が変わり、何が変わらないのか

では、今後登場が予定されている『バイオハザード レクイエム』では、どのような状況が想定されるのでしょうか。ここからは、これまでの傾向を踏まえた“予想”として整理しておきます。

表現要素日本版(CERO想定)欧州版(PEGI18想定)
四肢・頭部の欠損原則として直接描写は避けられ、カメラワークや暗転で回避される可能性が高い。断面や欠損を含むゴア表現が実装される可能性がある。
首切断などの即死モーションRE:4同様、専用モーションは封印される可能性大。即死モーションを含めた“フル演出”が実装される可能性。
内臓・断面の露出画面外処理やシルエット表現などでぼかされる傾向。リアルな断面や体液表現も含めて描かれる可能性。
出血量・飛散表現量・色味ともに抑えられ、視認性が低くなる傾向。RE:4相当、あるいはそれ以上のインパクト表現が想定。
カットシーンのゴア表現一部はカット/構図変更/暗転での回避が行われる可能性。監督・開発側の意図どおりの演出がそのまま収録される見込み。

もちろん、これはあくまで過去作の傾向から見た推測に過ぎません。ただ、「日本の基準が大きく緩和される可能性は低い」一方で、技術面ではさらに表現がリアルになることが確実視されているため、日本版と海外版の間に一定の差が生まれる流れそのものは、今後も続くと考えられます。


■ おわりに:バイオハザードの未来を考えるための「前提知識」として

バイオハザードシリーズの30年を振り返ると、ホラー表現の進化と、それに対する各国のレーティング機関の対応は、常にセットで語られてきたことが分かります。

特に日本では、CEROの方針により欠損や断面といった表現が構造的に採用しづらい状況が続いており、その一方で欧州版ではPEGI18区分のもと、よりオリジナルに近い形で作品が届けられています。

どのバージョンで遊ぶかは、プレイヤー一人ひとりの価値観やプレイスタイルによって異なりますが、「なぜ日本版だけ表現が違うのか?」「これからのバイオはどうなっていくのか?」を考えるうえで、本記事の内容がひとつの参考になれば幸いです。